やっと9月初旬に行った産地視察会の続きです。もう10月ですけども。。。
今回は番外編として、米の乾燥と調製について説明したいと思います。カントリーエレベーターの視察の説明としては、欠かせないものですので、基礎知識として。
今回も長いですが、かなりお米のことに詳しくなるはずです。米屋をする前の、昔の自分に言い聞かせるような感じで、分かりやすく説明していきたいと思います。
【稲穂の写真】
まずは基礎の基礎。上の写真のつぶつぶがお米です。まだ硬い殻に覆われていて、籾(もみ)といわれる状態で茎にくっついています。この茎にくっついている状態の籾を取り分ける作業を“脱穀”といいます。
【脱穀後、籾摺りした米。左が玄米、右が籾殻(もみがら)】
籾の中には玄米があります。籾殻とは、玄米を覆っていた硬い殻のこと。玄米と籾殻に分ける作業を“籾摺り(もみすり)”といいます。
その後、玄米の表面を削っていくと白米になります。いわゆる精米です(ちなみに玄米の茶色の層は、糠層(ぬかそう)といいます。糠層の粉状のものが、通常見る糠(ぬか)です。ぬか漬けのぬか床にしたり、肥料にしたりします。米油もとれます)。
稲刈り
↓
脱穀(稲穂から籾と茎葉を分ける作業)
↓
乾燥
もみすり(籾を玄米と籾殻に分ける作業)
調製
↓
精米(玄米を白米と糠に分ける作業)
おおまかにいうと、こういった工程で、スーパーや小売店で目にする白米が出来上がります。
乾燥、もみすり、調製は、一緒に書きましたが、それは農協のカントリーエレベーターやライスセンターで行うことが多いからです。個人でやると手間と設備費用が非常にかかる工程ゆえ。
【稲刈り風景 籾をトラックへ積み替え中】
【コンバインの後ろ姿】
写真はコンバインを使っての稲刈り風景ですが、コンバインのいいところは、刈り取ったあとの稲穂から、茎と葉を取り除き籾だけを取り出すこと(脱穀)が、稲刈りと同時にできること。コンバインの後ろからは、茎や葉の部分が捨てられ、籾はコンバイン内に溜まっていきます。
捨てられた茎や葉は肥料となり、溜め込んだ籾はトラックに積み替えるなどして、乾燥機まで運びます。
【右側奥のものが乾燥機。4台あります。全て遠赤外線】
乾燥は、一般的には農協のカントリーエレベーター(大規模)やライスセンター(小規模)に設置された乾燥機を使います。もちろん、個人や営農集団で独自に持っている方もおられます(写真の設備は、あるブランド米の営農集団のライスセンター。掃除が行き届いていますね!)。
乾燥機の無い時代は、いわゆる“掛け干し(かけぼし)”“稲架掛け(はざかけ)”というやり方をやっていました。いわゆる自然乾燥。昔ながらのこういった乾燥方法は食味が向上するため、今でもこだわりのお米の産地などは、続けているところがあります。その場合は、乾燥させたあとに脱穀機を使って脱穀という手順です。干すのも大変ですし、脱穀の作業も大変です。
自然乾燥と乾燥機を使うのと、どちらが良いのか?と、ときどき話題になります。もちろん、自然乾燥のほうが良いのですが、その二つよりも優先しないといけないことがあります。
それは、稲を刈り取ったあとは、なるべく早く乾燥作業に移ること。そして、ムラなく乾かすこと。洗濯物と一緒です。ちゃんと乾かすことできなければ、天日も乾燥機もヘチマもありません。
洗濯したあとの衣類を、洗濯機の中に入れっぱなしにすると、臭いがでます。雑菌の繁殖が原因ですが、米の場合も同じで、刈り取ったままの状態で放置すると、次第に発酵が進み発熱し、最後には腐ります。
ですから、例えば7月末~8月頭には稲刈りが始まる極早場ブランド米の“七夕コシヒカリ”は、夏の暑い時期ということもあり、稲刈り後2時間以内には、乾燥機に入れることが決まっています。これはなかなか厳しい基準です。特に乾燥機のある場所から離れた圃場の稲刈りの場合はシビアでしょう。
ブランド米は、そういったこともあるがゆえのブランド米といったところです。栽培方法や自然環境も大切ですが、こういった点も見逃せないポイント。今では乾燥機も自然乾燥に近いものがあり、そういった点もこだわりの一つになっています(ですが、こういった点はなかなかお客さまにスムーズに伝わらないのが現状です。その点は、販売店としての反省点のひとつ)。
雑菌が繁殖しないうちに乾燥させることと、玄米の水分をムラなく一定に保つことは、一年間を通しての品質維持や食味には大切なことであり、美味しく頂くための前提条件です。
そういったこともあり、稲刈り時期に台風が来ると、非常にヤキモキします。台風で稲が倒れやしないか?台風は逸れたけど、長雨が続いて稲刈りができないみたい、刈り遅れになるかも?今日は晴れたみたいだけど、連日の雨で稲刈りする人がこの日に集中するし、米も多少濡れてるしで、乾燥機がフル稼働しても間に合わない可能性が?故障などないように!と少々ハラハラします(生産者の方々には及びませんが、米屋の場合、それが長い期間続きます。全国各地の米を取り扱うため)。
雨が続くとヤキモキするところは洗濯物とよく似ていますが、同じでないのは、一年に一回の作業であるため時期が集中しているうえに、失敗が許されないことでしょうか。しかも、ゆっくり乾燥させないと米粒が割れたりするなどの品質の低下がありますから、機械乾燥といえど、時間がかかります。
そんなこんなで乾燥が無事済めば、あとは籾摺りして玄米を取り出し、その玄米を篩(ふるい)にかけ選別したり、混入した異物を取り除く作業となります。
【刈り取って脱穀したばかりの籾】
写真は、乾燥前の籾の状態です。乾燥させたあと、籾殻を取り除き玄米の状態にして、篩(ふるい)にかけて米の太さを一定基準以上のものに揃えたり、混入した様々な異物を取り除いていきます。いわゆる調製作業です。
異物というのは、稲の茎や葉の一部であったり(写真でも確認できますね)、ヒエなどの他の植物の実であったり、または小石であったりとさまざま。田んぼの近くで交通事故があれば、ガラス片などが混入する可能性もありますので、そういったものを取り除く工程もあります。さまざまな工程を重ねたうえで、米穀店が仕入れる玄米ができあがります。
乾燥、籾摺り、調製と全て機械化されてますが、それゆえに設備費用は膨大。また機械が増えるごとにメンテナンス作業も増えます。また、そういった設備を使いこなす技術も必要。機材を全部揃えているところばかりでもありません。
米屋をしていると、入荷した玄米を見るだけで、ぼんやりとですが産地の実情や実力を察することができます。全国に知られた有名産地といえど、ひどいものはありますし、逆もしかり。
もちろん、直接産地の圃場や調整施設を見学するのが一番ですし、安心できます。設備が整っていて、なおかつ掃除やメンテナンスなどの人の手間がかかる部分もおろそかにしていないところの米は、やはりいいです。安心してお客さまにオススメできます(注:逆に設備が多少整ってなくても、玄米の状態が良ければOKです。なぜなら、設備がなくても工夫次第で品質を高めていることが伺いしれますから。そういった産地は別の意味で安心感があります)。
佐賀のカントリーエレベーター経由の玄米は非常に状態が良く、設備も整っており、その点では全国でも定評があります。実際、何年も安心して販売できています。こういった玄米は実はかなり珍しいのです。
次回、産地視察の最後の回を書く予定ですが、その佐賀のカントリーエレベーターの中でも白眉の存在である“佐賀松浦カントリー”が舞台となります。お楽しみに!
注 : 以前、お客さまから見せて頂いた雑誌に倹約特集が載っていて、「産地直送のお米を買えばこんなにお得!」と“籾袋”の写真が掲載されていました。ガックリ。運が悪ければ、上の写真の状態のものを乾燥させただけ、といった品を購入する恐れもあります。ちゃんと籾か玄米かを確認することは最低限必要ですし、なんにせよ信頼出来るところから購入することが、やはりベストです。