追記:偽装肥料の使用された範囲は、秋田だけでなく青森、岩手、山形、福島、茨城、栃木、群馬、千葉、山梨、長野の11県に広がっております(2015年11月10日)。
新米の試食ラッシュで、てんてこ舞いになっています。
最近試食したのは「さがびより」「逢地さがびより」「天川コシヒカリ」「高度クリーンななつぼし」です。
「さがびより」だけが「本来のさがびよりらしさ」が薄れている感じで、「高度クリーンななつぼし」は良、「逢地さがびより」「天川コシヒカリ」はバッチリオススメといったところでした。
秋田県の「淡雪こまち」の新米も待たれるところですが、例の「肥料の偽装事件」がJA全農あきたを襲っていまして、入荷が遅れそうです。そして昨年穫れた26年産も出荷停止中という厳しい状況です。
有機肥料の成分と化成肥料の成分の割合が違っていたという事件ですので、減農薬減化学肥料栽培(特別栽培米)の表示をしなければ問題はないのですが、一部の卸や大手はJA全農あきたへ全量返品などをしているところもあるらしく、かなり厳しい対応がなされているようです。
有機肥料と化成肥料の違いというと、一般的には「安全性の違い」という認識でしょうけども、生産現場では「即効性があるかないか」という認識も強いと思います(即効性があるのは化成肥料です)。
問題の肥料を使っていた生産者の中には、「有機肥料の成分が多いわりには良く効く肥料だな~」と感じていた方も多いのではと勝手に想像しています。記者会見でもあったように、ペレット状の製品にし易い面や、購入者の良く効くという実感というプラス面が、偽装を止めれなかった原因だったのでしょう。憶測ですけど。
ただ化成肥料には負の側面がありまして、施肥のタイミングや量を間違うと、時として効き過ぎるという問題があります。作物がひょろっと伸びてしまう。そのため茎葉の部分が柔らかくなり、病気や害虫への耐性が弱くなる。収穫量は増えるけど・・・という問題です。
突飛な喩え話で恐縮ですが、作物にとっての栄養源である肥料を人の食品に当てはめると、化成肥料は「スポーツドリンク」、有機肥料は「お味噌汁」、というのがボクの勝手なイメージです。
「スポーツドリンク」は栄養価が高く体内への吸収を早めるための工夫があり、即効性があります。お味噌汁は有機肥料と同じように発酵していて、栄養価も高く、飲み続けていくことで腸内環境を整えていく作用もあります。
滋養を考えると「お味噌汁」をベースにしたほうが良いのですが、短期間では飲み続けて体に良かったのかどうかわからない。また、咄嗟の危機的状況、例えば連日の猛暑で人でいう熱中症みたいなときに「お味噌汁」を与えるか「スポーツドリンク」を与えるか?という、そういうシチュエーションもありえます(普通はスポーツドリンク一択ですが、頑強で胃腸の強い人なら、場合によってはお味噌汁のほうが元気になるかもしれません)。
人が胃腸で細菌の力を借りて消化吸収をしているように、植物にとっての土壌はそういった側面があります。
この偽装事件で一番可哀想だなと思うのは真面目な生産者。篤農家たちの今までの栽培データや日々の実感といったものが無になることです。「お味噌汁」を与えていたと思っていたのに、「スポーツドリンク」だったわけですから。これはひどい裏切り行為です。
そういった数年間の栽培実績がガラガラと崩れてしまうと、これから先も影響がありそうです。影響は表に現れにくいでしょうけども、県全体のマイナスとしては、けっこう深刻なダメージではないかと思います。
さらに惜しいことは、昨年や今年のような、ちょっと涼しめの夏という気候だと、化成肥料の負の側面が出やすく、そういった面でも非常に迷惑を被っている方がいるのではということです。
(冒頭の試食結果も「さがびより」だけが通常の栽培方法の規格(慣行栽培)で、残りの銘柄は減農薬減化学肥料栽培の特別栽培米です。もちろん、特別栽培米+ブランド化された銘柄ですから栽培管理の徹底という面でも差があります。また慣行栽培でも今年の佐賀ヒノヒカリは非常に出来が良いそうで、一概には言えません。そこがまた面白いところです)
今回の事件の良い面としては、全農のチェックが機能しているところや、業界全体で出荷停止や全量返品など厳しい対応がとられていることでしょうか。量が量だけに大事(おおごと)になっています。
弊店で唯一販売している秋田米「淡雪こまち」は、いまのところ偽装肥料は使われていなかったという案内が来ていますが、調査は続いており、全てが確定するまでは卸元は出荷停止措置の考え。そのため当店の在庫は、店頭在庫しかありません。ネット通販は中止していて、店頭は特別栽培米の表示は消しているという状況です(追記2:その後の調査により、残念ながら当該偽装肥料が使われおりました。26年産と27年産は慣行栽培として販売することに決まりました)。
早く調査が終わって、もとのように販売していけたらなと、心から願っています。
今年は天候不良に悩まされ、穂いもち病やら何やらの懸念がありましたが、力強く育っていた2015年9月13日の「逢地さがびより」の姿。