本日は、先日発表になりました日本穀物検定協会の“米の食味ランキング”の話題です。
http://www.kokken.or.jp/ranking_area.html
【日本穀物検定協会 米の食味ランキングのページ】
思うところがたくさんありますが、長文過ぎてもいけませんし、最近はパソコンのモニターを見続ける仕事が多く、目も疲れていますので、軽くいきます。
24年産の一番の話題は“熊本県産・もりのくまさん”。
数ある特A評価の銘柄の中でも、一番の成績だったとか。
新聞、テレビの報道もあって、売れ行き好調のようです。
くまモンといい、もりのくまさんといい、最近の熊本の勢いは凄いですね。
ついでに和牛の肥後あか牛も、黒毛和牛同士のサシ云々といった基準ではなく、別の側面から評価される未来が来て欲しいと思います。
思わず話題がそれてしまいましたが、この“米の食味ランキング”にも賛否両論ありまして、実態を反映していないといった声も多くあるのをご存じでしょうか。
実際、“〇〇県産〇〇ヒカリが特A評価!”と言ったところで、産地の〇〇県内だけでも、山あり谷あり平地ありで環境が違いますし、栽培している生産者も大勢いるわけで、その中に名人も下手もいるわけですから。そういった栽培環境の違いが食味に影響を与えて、同じ県内でもかなりの差が付いてしまうことは容易に想像出来ますし、経験からもそうです。
結局、検査員もごく一部のサンプルを比べてしかいないわけです。これは仕方がないことではあります。
といって、このことだけで“米の食味ランキング”を全否定する必要もないわけです。
というのも、生産者や自分のような米穀業界にいる人間にとってみれば、その米の本当の力がどれくらいのものかを、ある程度把握できるからです。潜在能力、ポテンシャルが分かる。最適な栽培環境があれば、かなりの食味が期待できるし、そういう米が少量だけかもしれないけども現実にある、ということが分かります。
そういった視点から見ると、近年の北海道や九州の銘柄の評価の高さは目を見張りますね。こういった地域の特A評価の米は、ほとんどが近年でてきた新品種ばかりですから。
コシヒカリを超える食味の品種が、長年に渡りなかなか出て来なかった現状が、潜在能力的にですけども、変わりつつある。それは研究開発や栽培方法がうまくいっているということ。慶賀すべきことだと思います。
コシヒカリは、食味がたいへんよろしい品種で、北海道と青森を除く都府県で作付けされているメジャー品種ですが、じつは栽培の難しい品種でもあります。「米の品種大全」(米穀データバンク)という本でも、【耐倒伏性:弱、穂いもち(病への耐性):弱、葉いもち(病への耐性):弱 [※注 ()内は補足]】といいとこなしです。でも、食味が非常に良い。
もともとコシヒカリは、新潟が米の名産地でもなんでもなかった時代、鳥も食べないと言われていた「鳥またぎ米」の産地であった時代に、新潟県が全国で初めて栽培を決めた品種です(「コメのすべて」有坪民雄著)。
なぜ、栽培を決めたかというと、当時の新潟の農家は食味よりも生産量向上のために肥料をやり過ぎるクセがあったようで、過肥料でヒョロヒョロっとした稲を育てて、バタバタと倒伏させている現状があったそうです。新潟県の農業指導機関が、そこにわざと、従来のものよりも倒伏しやすく栽培の難しい品種であるコシヒカリを農業指導のために採用したといういきさつです。
そういった奇跡のような経緯から、コシヒカリは生産されるようになったわけでして、病気に強くて、倒伏しにくくて、生産量が多くて、なおかつ美味しい米といったようなソロバン勘定を弾いて改良された他の品種とは、初めからかなり性格の違う品種なのです。
そういった食味が良いこと(だけ?)で人気になったコシヒカリの味を超えるような品種というのが、なかなか出ない状態が長年続くのは無理もないことだったと思います。しかし、今回の米の食味ランキングの結果を見てもわかる通り、潜在的にではありますが、そういった状態が崩れてきています。
九州の米で特A評価された銘柄は、多数が高温障害に強いというメリットを持った新品種ですし、昔は美味しい米が穫れないといわれた北海道も近年現れた新品種で2銘柄が特A評価。温暖化にも寒冷化にも対応できる新品種がすでに日本にあり、食味の面でも評価が高い。そういったものが増えてきたことは、心強くもあり、明るい話題でした。
結局やや長文になってしまいましたが最後に。
その年の日本一の食味の米を確実に手に入れたければ、米のコンテストやコンクールなどで受賞した銘柄(細かい産地が特定されていて、できれば生産者も分かるもの)などを探して購入したほうが良いでしょう。ただし、信頼できるところから、です。
というのも、米の食味というのは、収穫後の調製から保管状態、精米のやり方や巧さ、精米してからの日数によっても、かなり変わります。ほんとに同じ米か?というくらい。
そして、最後は炊飯方法でも(笑)。
何にせよ美味しい銘柄が北と南から増えてきたことは、喜ばしいことでした。